このところ数件、大学に相談を寄せられた中で、「問題だなぁ」と思ったことがあります。

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「AIで何とかコロナ打開できないでしょうか?」といった種類のご相談をいただくんですね。

 実は、そういう発想、つまり「困ったときの神頼み」式の思考停止が、一番「コロナ打開を阻むもの」になっている。

 本稿の結論を最初に記すなら、「コロナを打開するのはあくまで<人間>で、その判断の参考に、機械学習システムや大規模データベース解析は役に立つ」。

 それだけのことに過ぎません。その範囲においてAIは活用すべきだし、それを超えた神頼みの対象ではない。具体例を示しましょう。

 皆さんは「何とか<気象衛星ひまわり>の力で、台風被害を減らせませんか?」という人がいたら、どう思われますか?

 気象衛星は様々な天気の予測に役立ちます。予想雨量が激しく、土砂災害などが懸念される地域をピンポイントで予測することなども不可能ではありません。

 しかし、だからといって「ひまわり」に「降水量」を減らす力もなければ、大雨が降った時、地盤を固めて土石流発生を食い止めるパワーなども持っていない。

 人は、わけが分かったと思っているものには「魔力」を感じませんが、わけが分からないと「過大な期待」を寄せることがある。

 どこかで、かなりサイエンス・リテラシ―に問題のある政治家が、「うがい薬でコロナ重篤化防止」とウソでしかないウソを、多分当初は本当に信じ込んだのでしょう。

 愚にもつかないガセねたをメディアにまき散らして問題を起こしたケースがありました。

 その人たちにとっては、「うがい薬」は未知のパワーをもった文明と初めて接触したブッシュマンにとってのカメラのようなもので、人の魂を吸い取るくらいの錯覚をもったのでしょう。

「AI」は機械仕掛けの神さまでも何でもありません。

 シンギュラリティという笑い話がありますが、これは資産形成に成功した金満家が半ば信じ込み、半ば商売のために巻き散らかしている「ノストラダムスの大予言」と大差あるものではない。

「気象衛星は台風克服の救世主」になる・・・わけがない。台風は台風です。天気予報は人間が災害を避けるのに参考になるかもしれない情報を提供するにとどまり、それ以上には決して出ることがない。

 同様で、おかしなAI信仰があれば、ばかばかしい迷信と一喝することが必要です。

 AIでコロナなど克服できません。天気予報で台風や土砂崩れを克服しようとしても意味がないのと同じで、天災人災の傍らで「計算」することしか、単体のAIには徹頭徹尾できない。

 その結果が自動的に配信されて、私たち人類を救ってくれる夢のプログラムが走り出し・・・などというのは、さらなる「機械仕掛けの神」信仰に過ぎず、現実には複雑なシステムは稼働前に自前のバグで止まったりする方が普通です

 でも「気象衛星」の予報で、いち早くリスクを察知し、そこから「避難する」という決定を人が下し、実際に退避行動を取るなら、人命が救われる可能性もあります。

 そうした意味において、AIがコロナ「対策」で「人の役に立つ」ことはある。

 AIブームの何のというのは、高々ここ8~9年のことに過ぎません。また、あまり世の中に強調していませんが、この種の問題に私自身は四半世紀コミットしています。

 非常に分かりやすく記すなら「AIの使い方」は基本的に2通りしかありません。

 一つは「検索エンジン」いま一つは「コンピュータービジョン/画像診断」そう思って大きく外れません。

 今日に至るAI興隆を準備した原点に立ち戻って、コロナ対策に「役立つ」AIとは何かを、簡潔に整理しておきます。

コロナ対策で役に立つAI:その1
検索エンジン~電子カルテの延長で

 基本的に、機械学習やビッグデータ解析の「人間を超える利点」は一つしかありません。

 人間がいちいち見ていたのでは、とてもではないけれど見切れないほど「大量の情報」あるいは「詳細な細部」について、単純に定義できるタスク、つまりあまりアタマを使わない単調な作業を延々繰り返すこと。

 これを大きく超える「魔法のような」自動システムは、2020年時点、とりわけ新型コロナウイルス対策で、まずもって実用化されていません。

 話を単純化するために、人の命を救う問題に特化してみます。

 お医者さんが患者を治す。一人ひとりの患者さんを全力を尽くして救命します。少し前に報じられた「高齢者を枯らす技術」などというのは言語道断、いまさら言うまでもありません。

 そうやって一人ひとりの臨床で、医師もスタッフも全力を尽くしたその結果として治る人もいれば、薬石効なく幽冥境を異にする、といったことも起こります。

 そうやって得られた、一つひとつのカルテの情報を「電子カルテ」としてデータベース化して、全世界の臨床情報をスキャンできるようにしたら・・・。

 そのような発想で四半世紀前に構築されたのが「根拠に基づく医療」エビデンスベースト・メディスン(EBM)の考え方で、2020年代の今日ではEBMはすっかり普通になりました。

 ここでコンピューターしかできないことは、特定の病名などが示された時、莫大な量の電子カルテ情報にアクセスして「この病気に、外科手術で完治確率は何%、抗がん剤を併用した場合は何%、放射線治療を併用した場合は何%・・・」といった治療法と完治確率の関係、つまり「確からしさ」を示すことはできるわけです。

 しかし、その計算に即して、実際に診療方針を決定し、患者を治すのは医者であり、またここ20年ほどは患者さん自身の合意を得ることも重要になっている。

 これがインフォームド・コンセントと呼ばれるものの本質です。

 人類が、とりわけ医療現場がいまだかつて経験したことのない、新型コロナウイルス肺炎は、どのような治療を施したとき、どの程度治癒が見込まれるのか、当初はさっぱりわけが分かりませんでした。

 しかしネットワークコンピューターに接続された莫大な臨床情報を<自然言語処理>と呼ばれる情報技術で結びつけ、ヤフーグーグルと本質的には同様の「検索エンジン」を早期に構築したことで、現場は非常に助かった、という2020年の現実があります。

 しかし、これは最近のAIでもへったくれでもない。20年前からあった技術で、単に検索しているというだけに過ぎません。

 私が東京大学に任官して最初に指導した学生、今井健君は、医学論文のビッグデータベースに対して、引用・被引用の「サイテーション」関係に基づく紐づけを行って、莫大な先端医療情報のマイニングが可能なツールを開発しました。

 彼がこのテーマに着手したのは2001年、最近のAIでは全くありません。

 今井君は現在でも、東京大学医学部准教授として関連の専門第一線で貢献していますし、有効なデータマイニング技術は流行と無関係に使い物になります。

 ただし、ここで可能なのはあくまで「検索」でしかない。

 でもこの「検索」、グーグルフェイスブックなどが今日のGAFA興隆を創り出した元となるテクノロジーで決して馬鹿にはできません。

 さらに言えば、グーグルが社会全般の情報検索に用い、それとマーケティングを結びつけて大成功した大本は、1990年代、ヒトゲノム解読を目的に発達した自然言語処理のデータマイニング技術で、当時としては最先端の仕事でした。

 また、現在でも新型コロナウイルスDNA解析などにそのまま応用可能な確立された古典的テクノロジー、「枯れた技術」として安心して社会で活用されているものであることに注意する必要があります。

 自然言語処理は、当然、新型コロナウイルス対策の様々な局面で、要素技術として活用されています。

 しかしそれは、問題をすべて解決する「救世主」などというものでは、およそない。定着し切った常識的なハイテクノロジーを要素技術として使う以上でも以下でもない。

 それを活用し、判断を下し対処するのは私たち人間です。

 気象衛星が情報をもたらし天気予報ができても、それを活用して実際に施策を取らなければ、みすみすやってくると分かっている災害で、家ごと押し流されてしまうかもしれません。

 現在の日本国は、一部まともな自治体を除き、政府も自治体トップにサイエンス・リテラシーが欠如したケースが多くみられます。

 せっかく検索エンジンが重要な情報を齎しても、馬の耳に念仏で「GoTo」などと呪文を唱え続ければ、結果がどうなるか。

 今現在目の前で展開している現実のリスクが高いことが懸念されます。

 検索エンジンはあくまで道具であって、そこからはじき出される結果を生かすも殺すも、人間です。

コロナ対策で役に立つAI その2
コンピューター・ビジョン:進化した画像診断

 20年前、私がこうしたデータマイニングの仕事に携わったのは。当時東京大学工学部長であった小宮山宏さんに声をかけてもらい「東京大学知識構造化」というプロジェクトの中核部分で力をふるわせていただいたことによります。

 もとより私は一芸術音楽家に過ぎず、こういう公務の関係で「業績」など狙うつもりが最初からありませんので、研究予算をいただく責任として正確なペーパーを出す以上にデータ屋的に自分やラボを売るようなことは一切していません。

 と同時に、音楽のラボとして進学していた学生に、「このテーマでは先々に就職などが細い。それよりも人の命にかかわる医療情報のビッグデータマイニングシステム創成から立ち上げてみないか」と学生にテーマを与え、その結果、20年後の現在も東京大学医学部付属病院で准教授として辣腕をふるっていることは、先にも記しました。

 世の中にこうしたことはニーズがあります。

 20年前の医療情報界隈で問題になっていたのが「胸の写真」レントゲンの絵です。あるいはCT、MRI超音波画像など、すでに電子カルテシステムの中でデータとして共有されながら、必ずしも「検索」が容易でなかった「画像データ」がありました。

 これは何月何日に撮影された患者番号誰それさんの肺の写真・・・といったことは、人手を使って「タグづけ」してやることはできます。

 しかし、画像診断は人間の医者の専権事項でコンピューターにはできなかった。

 何とか画像診断を自動システムに代行させることができないか・・・。

 1990年代から、夢の技術として希求されていた「レントゲン写真などからガンなどの疾病を自動画像診断」する技術ニーズにブレークスルーとなったのが、2012年の「Google Cat(猫の顔を教師なしの「畳み込みニューラル・ネットワークシステムが判別)して以降の機械学習の発展です。

 いわゆる「第2次AIブーム」がここから8年来盛り上がります。

 2020年現在、胸のレントゲン写真などからガンを識別する画像診断は、人間の医師の見立てをはるかに超えて、見逃しの少ない正確なものに発展しました。そういう意味では「人間を超えて」います。

 しかし今もって、そのAIの見立てに従って診断書を書くのは人間の医師であって、もし医療事故が発生したら医事裁判で被告人になるのも人間の医師、AIが刑事告訴されることはありません。

 現実の医療情報学・医療情報経済学では、以前としてあくまで人間が主体で、電子カルテや画像診断AIは補助装置という役割を決して出ることがない。

 そういう意味では、全く「人間を超えて」などはいませんし、そのために医師が失職するということもありません。

 従来は「アナログ情報」であったレントゲンの画像などが、デジタル画像情報として自動認識できるようになると、デジタルカメラがとらえたあらゆる画像をコンピューターが自動認識してインテリジェントな反応を組み立てることができる・・・。

 こうした技術を「コンピュータービジョン」と呼ぶわけで、「画像診断」ニーズに端を発したテクノロジーは莫大な応用範囲をもつことになりました。

 例えば日本全国に配置されている「防犯カメラ」。その莫大なデータを一通りスキャンすることも、私たち人間の限られた一生の時間では不可能です。

 しかし、特定の情報・・・例えば犯人の特徴を絞り込んでデータマイニングすると、関西で犯罪を犯した人が、関東や中国地方を転々と移動している様子なども、昨今は解析され犯罪捜査などにも生かされるようになっているのは、周知のとおりと思います。

 自動車ナンバープレートなど、アナログといっても特徴化しやすいものは、交通の「Nシステム」(自動車ナンバープレート自動読み取りシステム)のように一足早く実用化されていた。

 それが不特定一般的なターゲットも追えるようになったのが「第2次AIブーム」を盛り上げた一因でした。

 この技術をフル活用する、100年前であれば「武蔵」「大和」の巨大戦艦のような<技術統合の象徴>ターゲットとして位置づけられたのが「自動運転」です。

 特にドイツでは「インダストリ―4.0」政策の統合目標に位置づけられましたが、その役割をほぼ終えつつあります。

 2019年後半時点で、現実に実証実験なども繰り返してみて、自動運転にできることと、できないことの間のギャップがあまりにも露骨に示されてしまい、2020年代のイノベーションで「自動運転技術」は2010年代トップスターの位置にはすでにいません。

 その代わり、人間を主役とするスマートシステムの中に、モジュールとしての自動システムが随所に組み込まれたシステムインテグレーションや、そこでのマーケティングなどがホットイシューになりかけていた・・・。

 そこにやって来たのが「新型コロナウイルスパンデミック」にほかなりません。

 コロナの状況は、やや陰りを見せていた「自動運転」周りに別のポテンシャル・ニーズを齎しました。

 無人自動システムによるソーシャルディスタンスを確保したトランスポートなどの可能性です。

 こうした技術史の流れから分かることは、コロナ対策という観点からも、オーソドックスなターゲットは「スマートシティ」をいかにして打たれ強い、AIベースのインテリジェントなものとして洗練させるか、といったところに落ち着きます。

 私自身が責任をもつ国内外のプロジェクト東京大学の取り組みも含め、本線はここにあります。

 こうした公務の内容は知る人しか知りませんが、知る人は知りますので(苦笑)大学の日常では「先生、何とかAIでコロナを克服できないでしょうか?」式のご相談をいただいたりもしたわけでした。

本当に必要な政策決定者のクールな頭脳

 AIが提供できるのは、文字情報を相手にする「自然言語処理」の範囲を逸脱する場合、コンピュータービジョンなどで自動認識可能な莫大なデータから、特定のターゲットを絞り込む程度の単純作業が中心になります。

 もちろんそれは、人間に可能な範囲を超えた走査ができるわけですから、役に立つものであるのは間違いありません。

 しかし、神頼み式で「人類を救う AIは救世主」とかいう寝言とは一切無関係な、単なる道具にすぎません。

 犯人がどこに潜んでいるか分からないというようなとき、膨大な可能性の中から、有用な情報の候補を絞り込んだりすることが、AIは得意です。

 しかし機械システムに任せて、自動的に犯人を逮捕などは、絶対にしてくれません。人間の領分が残っています。

「AIでコロナを何とかする」のは不可能ですが、気象衛星が齎す情報によって被害を最小に食い止める役に立つ災害対策を人間が立てるのには役に立つ。

 全く同様で、コンピュータービジョンが齎す、脈のありそうな政策案があっても、それを実行せず「GoTo」など最たるものですが、既得の利権構造に強くバイアスを受けた政策にしがみついている限り「根拠に基づく政策(Evidence-based Policy)」など、実現するわけがありません。

「ウイズコロナコロナと共に・・・というどうしようもない日本語は世界のどこに出しても一切通用せず、「Through COVID-19」などの表現が取られますが、この難局に対処する主役は常に人間であって、まともに頭の涼しいディシジョンメーカー、つまりクールな意思決定担当に、判断を下すのに役に立つ有用な情報を齎すのがAIにできる「すべて」。ここで打ち止めなんです。

 問題は、この「涼しいアタマ」をいかにしてきちんとするかであって、これがない限り、今般のコロナ騒ぎが穏便に収束することは、まず期待できません。

 タイトルで問うた「AIはコロナ克服の救世主なのか?」への答えは「バカも休み休み言いなさい」ということになるでしょう。

 社会や人を救うのは常に人間で、システムはそれに有用なサポートを提供するのに徹する当たり前の分別を徹底したところから順に、コロナ克服は達成されていくことになるように思います。

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AIで新型コロナウイルス感染症が抑えられると真剣に思っている人がいることが大問題である


(出典 news.nicovideo.jp)

AIはコロナ克服の救世主か?

これすごいですね!!

AIってこれからどんどん進化して行きますね!





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