すでにあちこちで公表されているApple Silicon(M1) Macのベンチマークテスト結果を見ると、確かに眼を見張るようなパフォーマンスを示している。それなのに、新しいMacが本当にどれだけ速いのか、今ひとつピンと来ないと感じている人も多いかもしれない。ベンチマークテストはしょせんテスト用の特殊なプログラムの実行結果であって、現実的なアプリの速さとは違うのではないかという感覚もあるのだろう。それについては、現実のアプリを使ったテストによる評価の準備を、筆者も現在進めている。
その前に今回は、Apple Siliconを搭載したMacのもう1つの大きな特長、省電力について、実際のアプリケーションを使って確かめてみた。
SafariでYouTubeを連続再生するバッテリーテストを実施
今回は、M1チップを搭載したMacがうたうバッテリーの持続時間が本当なのかを確かめてみることにした。先日のApple Eventでのプレゼンテーションや、アップルのMacBook Air、MacBook Proのサイトには、以下のような数字が示されている。
まずMacBook Airの場合は、
そしてMacBook Proでは、
となっている。ちなみに、この春に発売されたインテルCPU搭載のMacBook Airでは
このようなスペックだ。
MacBook Air同士の比較では、ムービーの連続再生でちょうど1.5倍の長さ。モバイル中心のMacユーザーにとっては、ピークパフォーマンスの高さよりも、こちらのバッテリー持続時間の方が気になるだろう。とはいえ、それを実際に確かめるのは、なかなか骨の折れる仕事だ。アップルの出している数字に、大きな嘘はないとしても、バッテリーの容量と計算上の消費電力から割り出した理論上の長さなのではないかと思っている人も多いかもしれない。
そこで今回は、実際にYouTube上にあるビデオをWi-Fiでストリーミングしながら、何時間再生し続けられるかをテストしてみた。アップルの示している2種類の数字は、おそらくWi-Fiによるインターネット接続時には軽い処理を実行したものと、あらかじめApple TVでダウンロードしたムービーファイルを連続で再生した場合のものではないだろうか。ストリーミングビデオの再生は、Wi-Fiアクセスとビデオ再生が同時に進行するので、バッテリーにとっては、それらを個別に実行するよりも厳しい条件となる。
YouTube上で選んだビデオは、アップルがまさにApple Silicon Macを発表した11月11日のApple Eventのもの。最初Safariを使い、YouTubeの「ループ再生」機能を利用して再生し続けようと試みた。しかしどうしたことか、何かのタイミングでそのループ再生の設定が勝手に外れてしまうことがある。すると、その回の再生が終わったところでストップして、連続再生のバッテリー持続時間の計測ができなくなる。
もしかしたらSafariのバグかと思い、Apple Siliconにも対応したGoole Chromeでも試してみた。ループ再生が外れてしまう頻度は減ったような気もしたが、よく分からないタイミングで解除されてしまうことがあるのは同じだ。もしかすると、それがYouTubeの仕様なのかもしれない。
そこでYouTubeの「ライブラリ」にある「再生リスト」機能を利用して、アップルの今年後半の3本のApple Eventビデオを順番にそれぞれ10回ずつ、合計30本(約30時間)連続して再生するリストを作り、それで計測することにした。これはSafariでもChromeでも、途中で止まることなく連続再生できた。結局ブラウザーはSafariに戻し、画質はHD(1080P)、字幕有りというデフォルト設定で、フルスクリーン表示にして連続再生した。なお画面の明るさは、オーバーレイ表示の目盛りで「6」、音はわずかに聴こえる程度の目盛り「1」に設定した。
テストでは、バッテリーを100%になるまで充電してから、バッテリー切れでMac自体の機能が停止してしまうまでの連続再生時間を計測した。テストに供した機種は、今年春に発売されたインテルCPU搭載のMacBook Air、M1プロセッサー搭載のMacBook Air、M1プロセッサー搭載のMacBook Proの3つ。結果はずばり以下の通りとなった。
インテルCPU搭載MacBook Airについては発売から半年以上が経過しているので、バッテリーが多少劣化している可能性はある。コンディションとしては日常的に業務で使用していたわけではなく、発売当初にレビュー記事を執筆するにあたりベンチマークテストなどを実施したり、Big Surのパブリックベータ版がアップデートされるたびにインストールしてフォローしていた程度である。
それをふまえても、フルHDビデオのWi-Fiストリーミング再生で、M1搭載モデルはインテルCPU搭載モデルの軽く2倍以上のバッテリー持続時間を示した。しかもアップルのいうApple TVの連続再生時間よりも長い。
いずれにしても、従来であれば、かなり消費電力が大きいと考えられてきたフルHDのストリーミングビデオの連続再生で、1回の充電で20時間前後も連続再生できるのは画期的としか言いようがない。これまでのノートブックの常識を覆す、ある意味掟破りとも言える長さだろう。
バッテリーの充電時間はどうか?
バッテリーの持続時間が長いということは、それだけバッテリーの容量が大きくて、充電にも時間がかかるのではないかと思われるかもしれない。実はバッテリー容量自体は、それぞれ直前のインテルCPU搭載モデルとほとんど変わっていない。今年発売された13インチMacノートブックのバッテリ容量を確認しておこう。
MacBook Airについては、インテルCPU搭載とM1でまったく同じ。MacBook ProはM1搭載モデルの方が、わずかに0.2Whだけ容量が大きいが、ほとんど誤差範囲と言っていいだろう。というわけで、基本的にバッテリーの充電時間には新旧の差はないと思われる。それでも、今回連続再生のテストに使用した3機種を、バッテリー切れでシステムが停止した状態から再び残量100%になるまでの充電に要する時間を実測してみた。電源アダプターは、それぞれの機種に付属しているものを使った。MacBook Airに付属しているのは30W、MacBook Proは61Wと、ほぼ2倍の開きがある。結果を示そう。
これを見ると同じ容量のバッテリーを、同じ仕様のアダプターで充電しても、インテルCPU搭載MacBook Airの方がM1のMacBook Airよりも充電時間が短い。これは、上で述べたような、インテルCPU搭載MacBook Airのバッテリー容量が劣化により減少している可能性を示している。一方、バッテリー容量の大きなMacBook Proの方が、M1のMacBook Airよりもやや充電時間が短いのは、電源アダプターの電力供給量が大きいためだ。もしMacBook AirをMacBook Pro用のアダプターで充電すれば、さらに短くなるはずだが、今回それは試していない。
いずれにしても、M1搭載機は「20時間連続でフルに使っても、2時間半ほど充電すればまた100%の状態に戻る」わけだ。これはなかなか頼もしい。
インテルCPUとApple Silicon、バッテリー環境設定の違い
今回のテスト中、気付いたこと、ちょっと気になったことを書き留めておこう。まずはテストの準備段階で、バッテリーを指標が100%となるまで充電するために必要な設定がある。「バッテリー」のシステム環境設定の「バッテリー」タブで、「バッテリー充電の最適化」をオフにしておくことだ。デフォルトではオンになっている。
画面にも表示されているように、これがオンだと80%程度までしか充電されないことがある。普段はその方がバッテリーの劣化が少なくなるが、テストのために100%まで充電するにはオフにしてから充電する必要がある。
ちなみに、Big Surのバッテリーのシステム環境設定は、インテルCPU搭載機とM1搭載機では異なる部分がある。同じMacBook Airでも、インテルCPU搭載モデルには「Power Nap」に関する設定がある。これをオンにすれば、スリープ中でもメールやiCloudのアップデートが可能となる。M1搭載モデルにこの設定がないのは、Power Napと同じことをしても、消費電力が小さいので、わざわざオフにする必要がないからだろう。
また、これはインテルCPU搭載Macでも、M1搭載Macでも同じだが、バッテリーで駆動中に残量が10%を切ると、画面の右上に「バッテリー残量低下」の通知が表示される。
インテルCPU搭載Macであれば、確かにこの通知が表示されたら、急いでアダプターを接続する必要があるだろう。しかし、今回のテストでM1搭載Macは、この表示が出てから2時間近くもフルHDのビデオをストリーミング再生し続けていた。残量10%では、M1搭載機の場合にはワーニングのタイミングが早すぎる。これではオオカミ少年的な通知になりかねない。このような通知は、バッテリーの残量で一概に出すのではなく、その時点での消費電力なども考慮に入れて、残りの使用可能予測時間が、たとえば30分を切ったら表示する、というように変更すべきではないだろうか。
そしてもう1つは、もしかするとBig Surの作り込みが甘い部分かもしれない。上で見た通知に表示されているように、インテルCPU搭載Macでは、バッテリー残量がゼロに近づくと、確かにスリープ状態になる。しかしM1搭載Macでは、シャットダウンのプロセスさえも経ずに、いきなりOSが落ちてしまっているように見える。その後にアダプターを接続すると、スリープ解除ではなく、再起動がかかってしまうのだ。Macには、ジャーナリング機能を持ったファイルシステムが実装されているから、それでファイルシステムが壊れてしまうことはないのかもしれない。それでも、あまり気持ちの良いものではない。このあたりは改善を望む。
なおBig Surの「バッテリー」のシステム環境設定は、iOSやiPadOSのように「使用状況履歴」を表示できるようになっている。
これは今回のテストでのM1搭載MacBook Airのものだが、このグラフを見るだけで、100%まで充電してバッテリー駆動に切り替え、画面を表示し続けて、そのまま19時間以上持続したことがはっきりと分かる。
いずれにしても新しいMacBook Air/Proは、M1チップの搭載によって、バッテリー持続時間だけをとっても、1つの大きなブレークスルーを成し遂げたと言える。
(出典 news.nicovideo.jp)
<このニュースへのネットの反応>
コメント
コメントする