来年6月15日以降はIE11が起動できなくなる
マイクロソフトは5月19日(現地時間)、Internet Explorer 11(IE11)が2022年6月15日以降に起動できなくなることを発表した。そもそもIE11は、Windows 10とともにEdge(Edge Lagacy)がリリースされたとき、終息することが予告されていた。その予定に沿う形で、昨年にはMicrosoft 365サービスでのサポートが停止された。これについては本連載ですでに記事を書いている。
●ChromiumでないEdgeは消えるが、IEはまだまだ無くならない
https://ascii.jp/elem/000/004/024/4024951/
今回の発表によれば、2022年6月15日以降は、IE11を起動しようとしてもEdgeが立ち上がるようになるらしい。しかし、どうしてもIE11で表示させたいウェブページがある場合は、EdgeのIEモードを使うことができるという。そしてこのIEモードに関しては、2029年まではサポートされる。というのもWindows 10 2019 LTSCが2029年1月9日までサポート期間があるからだ。
●Internet ExplorerはMicrosoft Edgeへ
https://blogs.windows.com/japan/2021/05/19/the-future-of-internet-explorer-on-windows-10-is-in-microsoft-edge/
●「Internet Explorer 11 デスクトップ アプリケーションのサポート終了」の発表に関連するFAQ
https://blogs.windows.com/japan/2021/05/19/internet-explorer-11-desktop-app-retirement-faq/
2022年6月まではほぼ1年。「Internet Explorer」はこれで終わりなのか? というと、実はそうではない。来年終了するのは、あくまで「iexplorer.exe」というプログラムだ。だからマイクロソフトの発表も「Internet Explorer 11 デスクトップ アプリケーションのサポート終了」というタイトルになっている。
実行プログラムが終わるんだから終わりでしょ? と考える人もいるかもしれないがそうではない。それは「Internet Explorer」の構造に理由がある。iexplorer.exeというプログラムは、IEの外側の部分だけが入っている。簡単にいえば、テレビの外枠のようなものがiexplorer.exeであり、中身は別にあるのだ。
EdgeのIEモードやさまざまなアプリのために
IEのコンポーネントはシステム内に残る
下の図は、MSのサイトにあるIEの構造図だ。図の一番上にあるのがIEの実行ファイルであるiexplorer.exe。しかし、IEをブラウザとして成り立たせるための機能の大半が、iexplorer.exeの外にあるDLL(Dynamic Link Library)ファイルに分散されて格納されている。
●Internet Explorer Architecture
https://docs.microsoft.com/en-us/previous-versions/windows/internet-explorer/ie-developer/platform-apis/aa741312(v=vs.85)
つまり、2022年6月15日で終わりになるのは、一番上の部分だけで残りの部分はそのまま残る。というか、これが残らないとEdgeのIEモードが動かない。IEモードは、Edgeという枠の中でIE11と同等の機能を動かすもので、そのためにはIE11のDLLが必要になるからだ。また、世の中にはこれらの「コンポーネント」に依存したプログラムが多数ある。マイクロソフトはアプリケーション開発者向けに「Web Browserコントロール」などの形で、IEの機能を提供していたからだ。コンポーネントがなくなったら、それらが全部動かなくなってしまう。
どうして、こんな構造になったのかというと、話は1997年のIE4にさかのぼる。このバージョンからIEは、Windowsの一部となり、Windowsとともに提供されるようになった。このとき、Windows ExplorerはIEと同じく、MSHTMLなどのコンポーネントを利用するようになった。
たとえばWindows XPまでは、Explorerのアドレス欄には、URLを入れることができ、そうすると、Explorerが普段ファイルを表示している領域にWebページが表示される。いま手元にXPマシンがないので、仮想マシンに入れてみたのがだ。
ExplorerにURLを入れるとファイルの代わりにウェブページが表示されるようになる。また、IEとExplorerはツールバーがよく似ており、左側のボタンのところが共通だ。Windows 95や98の頃は、デスクトップ自体がウェブブラウザだった。ある日PCを起動してみたらデスクトップが404になっていることもあった。
そしてアプリケーションは、Explorer同様にIEの機能を利用できるようになった。これらは、COMコンポーネントとして実現されており、アプリケーションからは比較的簡単に利用できた。ソフトウェア開発者から見ると、これは大きな進歩だった。自分のアプリケーションのウィンドウの中で、IEのようにHTMLをインターネットから持ってきて表示できるのである。こんなものをゼロから作ることを考えただけでぞっとする。
このためにIEは、Windows 98からはWindowsと一緒に配布されるようになった。これを世間は「IEがWindowsにバンドルされている」と解した。これでマイクロソフトはかなり損したのではないかと思う。しかも、「IEはWindowsに組み込まれていて分離できない」と正論でしか反論していない。結果的にWindows 7では、Windows Media Playerなども含まれていないEU向けの「N」が付くエディションを作り、他社ブラウザを選択できる「Choice Screen」をつけることでEUと合意した。
IEのスクリプト実行機能も別コンポーネントとして独立しており、これをWindows側にスクリプト言語として開放したのがWSH(Windows Scripting Host)だ。JavaScriptはIEの競合であるNetscapeの提案になるものだが、ECMA(当時はEuropean Computer Manufacturers Association)で規格化されたため、Microsoftも採用せざるを得なくなった。マイクロソフトには、Visual BASICをベースにしたVBScriptがあったため、どちらもコンポーネント化した。
こうしたコンポーネント化が進み、多くのIE関連技術は、Windows側でも利用することから、さまざまに拡張された。1番大きな貢献は、ブラウザのJavaScript(マイクロソフトはJScriptと呼んだ)から、HTTPプロトコルを使ってデータを取得できるようになったことだろう。
これが可能になる前、ウェブはいわば紙芝居のようなものだった。リンクに埋め込まれたURLからHTMLを取得して新しいページを表示することの繰り返ししかできなかった。しかし、ウェブページに含まれるJavaScriptがHTTPプロトコルを直接使ってデータを受け取ることができるなら、それを使ってページの一部を書き換えることもできる。つまり、紙芝居がテレビになったのである。
当時これはDynamic HTMLなどと呼ばれていたが、大きな可能性を多数のユーザーに見せたのは2005年のGoogleマップだった。当時のマイクロソフトは、ウェブサービス(インターネットを使ってサーバー同士が連携するもの)や.NETの普及が全社的な方針であり、Windows VistaやAzureの開発に追われていた。その結果、IEがのちにAjaxと呼ばれる技術の「苗床」であることにまったく無頓着なように見えた。しかし、Googleマップの成功によって、グーグルは自社製ブラウザの開発に進むことになる。ChromeはGoogleマップを可能にしたIEを手本とし、これを追い越すために作られたブラウザーなのである。
マイクロソフトは、JITコンパイラーを内蔵するJavaScriptエンジンであるChakraを開発してIE9から搭載するが、Windows 8でのつまずきなどもあり、IEでのシェア挽回はならなかった。Windows 10では過去のしがらみ(互換性)を捨て、作り直したEdgeに切り替え捲土重来を図った。このときIEは開発中止となり運命が決まった。しかし、IEを開発中止に追い込んだEdgeもまた終了。マイクロソフトはオープンソース版のChromeであるChromiumから作ったブラウザにEdgeという名前を付けた。そして、その方針をいま淡淡と実行し、IE11の寿命を2029年と定めたわけだ。
そういうわけで、iexplorer.exeは来年からは動かなくなるが、根幹部分であるMSHTMLなどのコンポーネントは、2029年まで残ることになる。その意味では「Internet Explorer」は、まだ「終わって」はいない。
(出典 news.nicovideo.jp)
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